ハルとオオカミ
「この前、駅で助けてくれてありがとう」
「駅?」
覚えてないのか、五十嵐くんは首を傾げる。五十嵐くんがゆっくり歩きはじめたので、私も続いた。
「えーと、三日前?かな。駅で、私とクラスの女子がナンパみたいなのに遭ってたら、五十嵐くんが声かけてくれたでしょ」
「……あー。あんときも言ったけど、あれは助けたってか単純に邪魔だったから言っただけ。感謝される筋合いねーよ」
「でも、わざとナンパさんたちに喧嘩売るようなことも言ってたよね」
そう言うと、五十嵐くんは驚いた顔をして私を見た。
「……なんでわざとだと思うの?」
「本当に邪魔なだけだったら、あのまま出入り口通ってバイバイできたもん。五十嵐くん、興味なかったらわざわざ喧嘩売ったりしないでしょう」
ーー『明らかにウザがられてんの、わかんねーの?』
あれは、わざと喧嘩売ってナンパさんたちの注目が自分に向くようにしてくれたんだ。
私たちがその隙に逃げるか、周りの人たちが助けてくれるようにって。
よく勘違いされるけど、五十嵐くんはヤンキーじゃない。
校内はもちろん、校外で他人に暴力振るったなんて話、少なくとも私は聞いたことがない。顔に怪我作って登校してきたこともないし。