ハルとオオカミ
「どうしたの、はる!? 大丈夫!?」
リビングからお母さんが慌てた様子で玄関まで来てくれる。私は膝を抱えて「無理……」と情けない声を出した。
「ど、どうしたの。学校で何かあったの?」
「私のアイドルが……尊くて……つらい……」
「は!? アイドル!? 何!?」
「なんであんな格好いいの……おかしい……『また明日』って、『また明日』って……うわああまた明日ぁぁ……」
「……何言ってるかわからないけど、大丈夫そうね。ご飯できてるから、早く制服脱いできなさい。まったく、驚かせるんだから……」
お母さんは呆れた顔をしてリビングに戻っていったけど、私は胸の動悸が収まるまでその場から動けなかった。
火照った身体を、玄関のタイルで冷やす。
頭の中では五十嵐くんの色んな言葉が駆け巡って、目を閉じれば彼の手が、髪が、顔がよみがえった。