ハルとオオカミ
「でもまあ、私にとってはすごく幸せな時間だったから……。この思い出を胸に、今日を生きるって決めたんだ」
「あー、そういう風に落ち着いちゃったのね。残念」
「ざ、残念ってなにが……」
「おはよ、河名さん」
突然うしろから聞こえた声に驚いて、肩が飛び跳ねた。
振り返ると、眠たそうな顔した五十嵐くんが鞄を肩から下ろしながらこちらを見ていた。
き、聞かれたかな!? 今の会話! 大丈夫そう!?
「お、おはよう。五十嵐くん」
「聞いて。課題、昨日の夜終わらせてきた。えらくね?」
「ええっ、すごいね。もしかして……寝ずに?」
「2時間くらいは寝た」
「あはは。よく寝坊せずに来れたね」
「河名さんに褒めてもらおーと思って」
えっ。
思わず何も言えなくなると、五十嵐くんはちょっと意地悪く笑った。
そして「課題出してくる」と言うと、プリントの束を持って教室を出て行く。
「…………」
「……やばーい」
五十嵐くんの姿が消えた後、アキちゃんがニヤニヤしながらそう言った。
私は何が起こったのか、何を言われたのか少しの間理解できなかった。理解しても放心状態ですが。