ハルとオオカミ
「……ほんと、ずるい……」
からかわれただけだってわかってるけど、あんなのずるい。
こんな朝からあんな表情を浴びたら、思考回路が停止しちゃうよ。
いたずらっぽく笑って私を見つめる五十嵐くんの表情が、頭から離れない。
「ねえー、これはワンチャンあるんじゃないの。脈ありだよ」
「ワンチャンとかないから。ていうか、何度も言ってるけど私のはそういうんじゃないから!」
「えー、もったいないなあ」
もったいないとかじゃない。叶わないのはわかりきってるんだから、ハナから期待しちゃダメだ。ええい、動揺するな私――!
だけど、その後も五十嵐くんによる無意識のファンサービスは続いた。
「河名さん、さっきのとこ教えて」
授業後、珍しく寝てなかったのか、驚くことに質問された。
まったく心の準備が出来ていなかったから、「ええっ?」と過剰に声を上げてしまった。
「……あー、ごめん。忙しかったらいい」
「いやいやいや違う、違うよ! ごめんなんでもないの! 教えるよ! どこ!?」
前後の席の威力、計り知れない。こんな風に声をかけてもらえるようになっちゃうなんて。