ハルとオオカミ


「えっと、これはね……」


うしろを振り返って、彼の机の上のノートに目を向ける。


一瞬だけ目が合って、それだけでドキドキした。


さらにはきゅっと締まった細く白い手首を見ただけでも胸がきゅんとして、我ながら重症だと思った。


推しへの愛が大きくなりすぎて、何しても最高に見える現象だ。


「河名さんて教えんの上手いよね」


照れるのを隠す余裕もないほど不意に言われて、「あ、ありがとう」と控えめにお礼を言った。


今絶対顔赤い。ニヤケてしまうのは必死にこらえた。彼がノートに集中してくれていて助かった。


その日から、授業後に五十嵐くんに勉強を教えることが多くなった。それは同時に私の表情筋との戦いのはじまりなわけで。


ここ一週間くらいで、私の表情筋はかなり鍛えられてしまった気がする。


ひとまず、五十嵐くんと話すという行為にだいぶ慣れた。ドキドキするのは相変わらずだけど……。

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