ハルとオオカミ
気付いて、とりあえず場を収めてから話をしようと声を出そうとしたら、先に男子のひとりが言った。
「やったの、五十嵐じゃねーの?」
……え。
驚いて、男子を見る。彼は日頃から『五十嵐がムカつく』と陰口を言ってる人だった。
「ほら、缶のすぐそば立ってるし。そこ通ろうとして足が当たったんだろ」
「…………」
五十嵐くんは静かに男子を見据えている。
反して、五十嵐くんの横に座っている女の子……鈴菜ちゃんは言葉を失ってうつむいている。
彼女はもともと大人しいタイプだし、前に『男子が怖い』と言っていた気がする。
あの男子が大きな声で犯人探しを始めちゃったから、言い出すのが怖くなってしまったんだろう。
五十嵐くんがムカつくからって、やったところを見たわけじゃないのに、憶測で決めつけないでほしい。
犯人探しは後にして、とりあえずクラス旗をどうするか話し合うのが先だ。