ハルとオオカミ
「……五十嵐だ」
「昨日サボったくせに始業ギリギリだな」
「不良こわーい……」
クラスメイトたちが遠巻きに彼を見て、コソコソと話をする中、当の本人は意にも返さず自分の席へ歩いていった。
私は自分の席から、その挙動をひとつも見逃さない勢いでじっと見つめる。
気怠そうな背中、ふわふわした猫っ毛の赤い髪、切れ長の大きな瞳、白くて綺麗な肌、シルバーのピアス、不機嫌な表情。
五十嵐 真央くん。
私の、心のアイドル。
*
一年前の春、高校に入学して一日目、教室で五十嵐くんを初めて見た。
彼は入学式をサボってお昼ごろに学校に来た。入学早々に真っ赤な頭の見た目完全不良な同級生を見て、クラスはざわついた。
クラスメイトから剣呑な目を向けられながらも、五十嵐くんは全く気にした様子も見せずに教室を見回した。