ハルとオオカミ
「……昨日の絵の具、倒したのは鈴菜ちゃんだったんだね」
言うと、彼女は肩を震わせてこくりと頷いた。その様子を見て、「そっか」と一言こぼす。
横で私たちの会話を聞いていたアキちゃんは驚いた顔をして「え、マジで?」と言った。
「五十嵐が『俺がやった』って言ってたの、あれ嘘ってこと? はるは鈴菜ちゃんだって知ってたの?」
「うん……。顔見てすぐわかった。五十嵐くんは、あの場を収めるために嘘ついたんだ」
「ほんとに……? 自分がやったわけじゃないのに、放課後残って旗塗ってたんでしょ? そんないい人キャラだっけ、あいつ」
「……アキちゃん」
「あ、ごめん」
軽く睨んでみせると、アキちゃんはしょんぼりした顔で引っ込んだ。
再び鈴菜ちゃんの方を向くと、私は「鈴菜ちゃん」と静かに名前を呼んだ。
彼女はビクリと怯えた様子で私を見た。怒られるかもしれないって思ってるのかも。
それでもこうやって逃げずに私のところに来てくれたんだ。きっとすごく勇気が要っただろうに。