ハルとオオカミ
「――五十嵐くん!」
呼ぶと、階段を下りる途中だった鮮やかな赤い髪が、くるりと回ってこちらを振り返った。
彼の瞳は、やっぱりまっすぐに私を見上げてくる。
「……なに?」
「……きょ、今日、一緒に帰りませんか」
勇気を出して言うと、五十嵐くんが目を見開いた。
そして、呆れた顔をして気だるそうにズボンのポケットに手を入れる。
「……だからさあ、いらないって。そういうの」
「そ、そういうのって何?」
「…………」
私たちの横を、他のクラスの人たちが物珍しそうな顔をして通り過ぎていく。
五十嵐くんは周りが気になるのか、そちらをチラチラ見ては何か言うのをためらっている様子だった。それは、いつも堂々としてる彼らしくない行動で。