ハルとオオカミ
彼の笑った顔を見ていたら、嬉しさと安心でまた涙が出てきた。
よかった。五十嵐くんがまた笑ってくれてよかった。
もう二度と『河名さん』って呼んでもらえないかと思った。
べつに泣きたいわけじゃないのに。
五十嵐くんを困らせちゃうから泣きたくないのに、堰を切ったように涙があふれた。
そんな私に五十嵐くんは柔らかく笑うと、階段をゆっくりと上がって私の前に立った。
「……なんか気ぃ抜けた。頑張って冷たくしよーと思ってたんだけど」
「……冷たくないよ。五十嵐くんはいっつも優しいよ」
「優しくないよ、俺は。……けど、さすがに泣かせたい趣味はないから、顔上げて」
ず、と鼻をすすって顔をあげると、五十嵐くんが目を細めて私を見ていた。