ハルとオオカミ
「はる?」
どきんと心臓が跳ねる。
五十嵐くんの顔がより近くなった。顔を覗き込まれて、意識が一気に目の前の五十嵐くんに集中する。
カッと顔が熱くなると同時に、ハッとした。
「あ……ご、ごめん! おはよう五十嵐くん!」
慌てて言葉を返すと、五十嵐くんは綺麗な形の瞳をぱちぱちと瞬かせた。
そして顔を離すと、フッと目を細める。その表情があまりに優しすぎて、意識が遠のきそうになった。
それからぽんと私の頭を軽く撫でると、彼はプリントを持って教室を出て行った。
たぶん課題だろう。この前一か月分の課題を溜めて懲りたのか、期限きっちりとはいかずとも、あれからちゃんと溜めずに提出してるみたいだ。
彼に触れられた頭がなんだか熱い気がして、むずむずした。この感覚をなんて言い表していいか、ふさわしい言葉が出てこなかった。
「……いやー、予想以上にヤバいね。これは。脈アリでしょ」
一部始終をそばで見ていたアキちゃんは、頬をほんのり染めながらニヤニヤしていた。