ハルとオオカミ
委員長として、人として、クラスメイトが困ってたら誰であろうと助けてあげたい。そういう純粋な気持ちでこれまで他人に親切にしていたけど、今回のはちょっと違った。
純真な親切心だけじゃない。下心がある行動だった。
『優等生』として生きてきた私にとって、それはとても大きなことだったんだ。
*
そんな出会いから一年経った今、五月のはじめ。
二年生に進級して、私は去年に続き委員長になった。
そして運よくまた、五十嵐くんと同じクラスになれたんだ。
「うあー! 全っ然わかんないんだけどっ! はるー、答え写させて!」
「だめー」
「はるうううう」
ホームルーム後、泣きながら課題を進めるアキちゃんを厳しく見守っていたら。
「河名さん」
うしろからかけられた声に、ドキリとする。
どんなに教室が騒がしくても、この声だけは絶対に聞き逃さない自信がある。
「五十嵐くん」
振り返ると、眠たそうな顔をした五十嵐くんが立っていた。
途端に私の視界がきらきら輝き始める。
「さっき担任が言ってた六限のホームルームって何やんの?」
「あ、この前の課外学習の振り返りだよ」
「あー……わかった」
五十嵐くんは一瞬何かを考えるような素振りをしてから、自分の席へ戻ろうとする。
それを見て私の委員長センサーが働き、すかさず「五十嵐くん」と呼び止めた。