王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「この国の騎士なら、黒い武装をするハズなのに……」

藍色と銀色……その色の組み合わせにハッとする。
そういえば、昔、母に教えてもらったことがある。東の隣国が、そんな色を国色にしているって……。

『この国の色は黒なのよ。それには、もうこれ以上誰の血も流れないようにっていう思いが込められてるっていう話だけど、真っ黒じゃ怖いわよね。せめてお隣の国みたいならよかったのに……』

『お隣の国は何色なの?』
『藍色と銀色よ。流れ星は、幸せをもたらすって言われてるでしょう? だから、藍色の空に銀色の星が舞うようにって、この国色の元、すべての人に平等に幸せが降り注ぐようにってそういう願いが込められてるって話よ。素敵でしょう?』

母がそう教えてくれたのは、まだ私が幼い頃だったけれど、しっかりと覚えている。
とても素敵だと私も思ったから。

じゃあ……これは隣国が攻め入ってきてるってこと?

胸の前に持ち上げた手を、ギュッと握りしめ再び外に視線を向けると、塔を下りきったガイルが王宮の方へと走っていく姿が見えた。

「ガイルっ」

ガイルは強いけど、あの人数を相手にするなんてまず無理だ。
しかも、武装もしていない姿であそこに飛び込んでいくなんて危険すぎる。

「待って、ガイル……っ」

危ないと知らせたくて、窓を壊す勢いでガタガタといじるのに、換気の意味でしか作られていない窓は、わずか十センチほど開いただけで、それ以上はびくともしなかった。

「ガイル……っ」

ここに閉じ込められていることを初めて後悔する。
危険を知らせたいのに声が届かない。

それでも、わずかに開いた窓から声を張り上げようとすぅっと息を吸い込んで……あれっと思った。

たくさんの平民が流れ込んできているのは、城塞の厚い扉だ。
その扉は、壊されたわけではなく、開かれている。……中から。

中から、誰が開けたの?

そう考えてハッとした。


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