王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「俺はっ、こんなことのためにあの針金を苦労して手に入れたんじゃないっ! おまえを助け出すためだ!」
「そもそもガイル様がこんな針金を渡さなければよかったんです! 頭よくないくせに変なこと計画して……! ああもうっ! お気持ちはわかりますが、クレア様が思ったら一直線だって知りながら、なんだってこんなもの用意したんですか!」
「それは……っ、それは、本当にすまないと思ってる……」
ジュリアさんにギンと厳しい眼差しを向けられたガイルが、口ごもり声のボリュームを落とす。
申し訳なさに歪んだガイルの表情を見ていられなくなり、ガタンと席を立ち「ガイルは悪くないよ。私が……」と声をかけたところで、ふたりの視線が一気に私に移る。
「それは大前提だ!」
「それは大前提です!」
同時に言われ黙ったところで、隣に立っていたシオンさんが「クレア。まだ治療中だから座って」と、着席をうながした。
その声は静かだけど……たぶん、怒っている。
あの騒動のあと、シオンさんに連れられ、私は男の子と一緒に王宮に戻り、湯あみを済ませて着替えたあと、部屋に戻った。
湯あみを出てから部屋まではジュリアさんに同行され、戻った部屋には既にシオンさんとガイル、男の子の姿があった。
ソファに座るとすぐにお城にいるお医者様が部屋に来て、殴られた場所と脱走の際についた傷の手当てをすると言われ……今はその最中だ。
殴られた場所はこめかみのあたりで、血は出ているけれど傷は浅いらしい。
シオンさんが何度も「頭だし、もっときちんと調べた方が」と言って、お医者様に「おおげさですよ」と笑われていたから、どうやら中身も大丈夫そうだ。