王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「最初、あの塔で身分を明かさなかったのは、その必要がないと思ったから。その後も〝シオン〟なんて身分を偽ったのは……その方が、クレアと近づける気がしたからかな。
クレアは、自分も含め、王族ってものに嫌悪感を持っているように感じたから」
「それは……そうかもしれません」

素直に認める。

私はテネーブル王国の王族しか知らなかったから、いきなり王子だなんて名乗られたら、同じような人だと判断しおかしなフィルターを通して見てしまったかもしれない。

「それに、俺もクレアと一緒で、そういう身分って、そこまで大事だとは思わないんだ。血筋とか、そんなものでしか価値を見出せないとか、馬鹿馬鹿しいにもほどがある」

最後、わずかに刺々しさが滲んだ声がひっかかり、そういえばと思い出す。

『あの人、少し育った環境が複雑だから他人同士を結ぶ情みたいなものが理解できないんですよ。だから今まで、どんなに想いを寄せてくれる子がいても冷たく切り捨ててきたみたいです』

ジュリアさんが言っていた言葉だ。

「そういうものでだけ価値を見出す方が、周りにいたんですか?」

慌てたようにパッとこちらを見たシド王子は、私が目を逸らさずにじっと見つめたからか、〝負けた〟とでも聞こえてきそうな微笑みを浮かべた。



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