王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「やり方が結構狡猾でさ。死ぬまではいかない程度にするんだよ。さすがに不自然に死んだりしたら犯人探しが始まるし。
だから、怪我とか嫌がらせとか……周りに不自然に映らない程度に仕掛けてきて、俺の心を折ろうとしてた。俺がやる気をなくしたら、それは俺のせいで、責められるのも俺だから」
嫌がらせを繰り返して、シド王子自らが王位を拒否するように仕向けたってことだ。
その重圧に耐えきれないよう、何度も何度も嫌がらせを……。
自分の子可愛さだとしても、あまりに身勝手に思える行動に憤りを覚えていたとき、シド王子が静かに話す。
「別に俺は王位なんか正直どうでもいい。むしろ枷にしか思わないし、欲しいならくれてやってもいい。でも……子ども相手にあんな事を平気でする親の子なんかには渡せないと思った」
強い意志のこもった声だった。
「そんなモチベーションで王子やってんのもどうかとは思うけどね。そんなだから、国から身分をなくしたいっていう、テネーブル王国の革命派の意見に賛同したってわけ。
国をまとめるのは、国民に選ばれたヤツがやるべきだ。血筋で決めるべきじゃない」
シド王子の口元からは、いつの間にか笑みが消えていて……今、どんな顔をしているのか心配になっていたとき、シド王子が体勢を変える。
背中を伸ばし真っ直ぐに座ったシド王子が、隣に並んだ状態で私の手を握る。
「テネーブル王国に攻め入る前、王国に忍び込んでいたとき、酒場でガイルに会ったんだ」
今までとは違い、明るい声だった。
「ガイルから聞きました。すごい美形が愚痴ばかり言ってたって。たしか、他人なんか信じるもんじゃない、みたいな感じの」
少し笑って言うと、シド王子も笑う。