王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「塔で、ガイルを庇いに入ったクレアを見たとき、すぐにわかった。ああ、この子だって」
「え……」

顔を上げると、シド王子の手が頬に触れる。
ドキッと心臓を跳ねさせると、シド王子は私の反応を見て目を細めた。

「すごく芯が強くて、真っ直ぐな、勇敢な女の子。そんなクレアに大事に思われているガイルが、心底うらやましいと思った」

顔にかかった髪を私の耳にかけながら、シド王子が続ける。

「あのときから、俺はクレアに惹かれてた」

穏やかで、どこまでも甘い声に思わず言葉を呑んだ。
一瞬にして、空気が艶を含みしっとりと色づく。

今まではなんとも思わなかったふたりきりの部屋が、とても魅惑的で……危険なものに思えた。

シド王子の柔らかい微笑みに緊張するのに、目が離せずじっと見つめ返していると、不意にその微笑みがツラそうに歪む。

それが、私のこめかみに貼られたガーゼのせいだと気づき……頬に触れた彼の手の上に、自分の手を重ねた。

「なんでシド王子がそんな顔するんですか」

苦しそうにしかめられた目元が、なんとか笑みを浮かべる。

泣き出してしまいそうにも見える微笑みに、胸をえぐられたみたいな痛みを感じた。
この人のこんな顔は見たくない。

「嫌なんだよ。クレアが傷つけられるのが。……軽くでもなんでも嫌だ」

顔を寄せたシド王子が、コツン、とおでこ同士をくっつける。

サラリとした黒髪が顔に触れ、ドキドキと胸が心地よくリズムを上げた。
胸が、痛いのにドキドキして……たまらない感情に襲われる。

こんな騒がしい感情、私は知らない。


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