王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「そっか……。ここに仕えている人たちも、不満はあったから、それで……」

テネーブル王国が平民をないがしろにするような体制をとっているのは知っていた。
今の体制だと、王族以外の国民は生活すらままならないって……母やガイルから聞いていたから。

つまり、王宮に仕えている騎士も使用人も、全員が向こう側で……王族だけが敵なんだ。

これはただ隣国が、テネーブル王国の平民に手を回して攻め入ってきたわけじゃない。
王国が敷くひどい体制に不満を募らせた国民が起こした革命だ……。

城壁の扉を抜けて中に流れ込んでくる平民を誘導しているのは、テネーブル王国の騎士と隣国の騎士だ。

ふたつの国の騎士が協力している様子を見て……ああ、そうかと思った。

この国の体制に危うさを覚えてから、いつかこうなるってわかっていただけに、その時がきたのか……という思いが浮かび、すぐに母の遺影を振り返る。

テーブルの上、母は相変わらず美しい笑顔を浮かべていた。
母もいつか言っていた。

『どんなに必死に尽くしても見返りがもらえなかったら悲しいでしょう? この国を支えている人たちはずっとそういう思いをしているの。だから、いずれ不満は溢れ、その矛先は王族に向けられる。その時は――』

握った手に、一際力を込める。

「その、時は……」
「――クレア! 逃げるぞっ」

突然聞こえてきた声に肩が跳ねる。

振り向くと、いつの間に戻ってきたのか、ガイルの姿があった。
はぁはぁ、と息を切らせているところを見ると、階段を駆け上がってきたらしい。

ガイルは、ズカズカと長い足で近づくと私の手を掴む。


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