王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「平民が隣国のグランツ王国と手をとって、攻め入ってきてる。目的は、王族だ」
真剣な顔を見つめてから、目を伏せる。
「国の体制に不満を募らせて……?」
「……そうだ。今の体制は、平民にとっては厳しい」
一応、王族の血を引く私に遠慮したのか、ガイルの声のトーンが少し下がっていた。
「王室付きの騎士まで、攻め入ってきた平民に協力している姿が見えた。きっと、知らなかったのは王族だけなんでしょう?」
視線を上げると、ツラそうにしかめられた瞳があったから、じっと見つめ返す。
「だったら、敵は王族だけなんだよね? 他の、ここに仕えてくれていた人たちが傷つけられることはないんだよね?」
ガイルの服の胸元を掴んで聞く。
必死に見つめる先、ガイルの瞳が驚いたように大きくなったあと、またくしゃっと歪む。
「……ああ。うちのヤツらも、グランツ王国のヤツらも、狙いは王族だけでそれ以外の人間は傷つけない。最初からそういう計画だから」
そう言ったあと、ガイルが申し訳なさそうに目を伏せる。
「……悪い。計画自体は俺も知ってたんだ。いつ決行になるのかは知らなかったけど……。でも、おまえのことは逃がせるようにちゃんと――」
「よかった……」
はぁ……と息をついてから、ガイルの服を掴みっぱなしだった手を離す。
それから、ガイルが掴んでいる腕を、そっと抜いた。
「他の人が無事でいられるなら、それでいいの。もしも巻き添えになる人が出たら嫌だったから」
椅子に座り直すと、さっきまで縫っていた布に手を伸ばす。
こんな事になってしまった以上、もうこれも役に立たないなぁと思いながら、途中まで出来上がっている赤い薔薇を眺めた。