王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「マイケル。これ」
部屋の前、帰り際に袋を手渡すと、マイケルは不思議そうに中を覗き……それから、困ったように笑った。
「クレア。俺、もう大丈夫だよ。お父さんもグランツ王国で働き口見つけて、そこでちゃんと金もらってきてくれるし……前みたいに、食うモノに困ってない」
「そうなの……? よかった。ずっと気になってたから」
ホッとして笑みをこぼすと、マイケルは「おう」と笑ったあと、袋のなかのハンカチに視線を落とす。
あの塔で縫っていた刺繍入りのハンカチを。
「でも、せっかくクレアが縫ってくれたものだから、もらうな。国中のヤツらに自慢してやるんだ」
へへっと笑ったマイケルの背中に手を振り、それから部屋のドアを閉めた。
テネーブル王国の平民が起こした暴動は、あれで無事治まったらしい。
きちんと国がまとめられないのであれば、誰か派遣することも可能だと提案したシド王子に対し、テネーブル王国の責任者は首を振った。
そして、今回の騒動を謝り、権力を失った王族をもう二度と追うような真似はしないと約束し……私の任も解かれたのだった。
決して、平民から許されたとは思わない。でも……身体が軽くなったような不思議な感覚だった。
「どうだ? 普通の女になった感想は」
「……言い方がやらしい」
嫌悪感を滲ませた目で見ていると、ガイルが「おまえなぁ」と顔をしかめるから笑ってしまう。
あの騒動が起こってから二日。
シド王子の正体がバレてからは初めての面会だった。
今日も、ジュリアさんの淹れてくれた紅茶がテーブルの上で湯気を立てていた。
「感想もなにも、だってなにも変わってないもの」
「まぁ、そうかもしれないけどなぁ」
「そっちこそ、王族付きの騎士じゃなくなった感想は?」
私が王族でなくなった以上、ガイルだって王族付きの騎士ではなくなってしまったということだ。
ガイルは後ろ頭をかきながら「別に……これといってねーな」と想像通りの答えを口にする。
相変わらず、身分とか昇格に興味がない部分は変わらない。