王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「昨日の朝……なんで、シド王子にあんなこと言ったの?」
他の王妃たちのことは、シド王子は悪くない。
それなのに責めるように言ったことが気になっていたから聞くと、ガイルは「うーん」と背もたれに深く寄りかかりながら話す。
「正直に白状すれば、俺はおまえが選んだ男ならいいと思ってる。あいつは、言動が軽くてつかみどころがない部分はあるけど、おまえへの気持ちが本気だってことはもう、分かってるし」
頭の後ろで手を組んだガイルはそのまま天井を仰ぐ。
「王子って立場がありながら、おまえがいなくなったって聞いた途端、すぐに探そうと必死になったところを見てるから、文句はない」
一拍空けたあとガイルが「でも」と続けた。
「俺は、王族の考え方や内々の争いが、どんなにひどい事態も引き起こすことも知ってる。
いくらあいつならって思っても……なにが起こるかわからない場所に、簡単におまえを渡せない。
おまえがひとりで考えて突っ走っちまうヤツだって知ってるから余計に」
ガイルが紅茶のカップに手を伸ばすから、私も紅茶を口にし……カップをカチャリとソーサーの上に置いた。
「ガイルはもう、私を守ろうとしてくれる必要はないっていうのはわかってる? この国を出てテネーブル王国に帰るのだって、ガイルの自由だって」
じっと見つめると、ガイルは呆れたように笑う。
「俺だってそこまで馬鹿じゃねーよ。それくらいわかってる。わかった上でここに残って、おまえの心配してる」
「……過保護」
照れたのを隠すように言うと、ガイルは「まぁな」と自覚があるように言った。
それからまた紅茶をごくごくと音を立てて飲むと、ひとつ息をついた。