王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
ガイルが自分の部屋に戻ったあと、ジュリアさんも用事があるということで席を外すことになった。
「私じゃなくてもいい仕事だと思うんですが……なぜか指名されてしまったので二時間ほど席を外します。誰か他の使用人をここに置くのも心配ですし、しばらくここにおひとりでいて頂けますか?
一時間ちょっともすればシド王子がいらっしゃると思いますので」
「大丈夫ですよ。子どもじゃないですし」
部屋でひとりでいるくらいなんでもないと笑うと、ジュリアさんは目つきを険しくする。
「子どもの方がまだマシです。クレア様は危なっかしいので目が離せません。鍵、両方かけていきますからね」
「……はい」
ビシィ!と指を突き立てられても、前科があるだけに文句も言えない。
ヒラヒラと手を振ってジュリアさんを見送ると、ドアが閉まってすぐにカチャン、カチャンと二度鍵の閉まる音がした。
もう抜け出すつもりもないのだけど……一度失ってしまった信頼は取り戻すのは難しいから仕方ない。
しん……とした部屋に、ふっと笑みがこぼれる。
こんな厳重に閉じ込められてしまったっていうのに、嬉しいなんて感じてしまう私はおかしいのだろうか。
心配や思いが感じられるこの幽閉はちっとも嫌だとは思えなかった。
塔の上に幽閉されていたときとは、理由が違う。
だから、嬉しい。
窓から外を見ると、グランツ王国は今日も眩しいほどの晴天に恵まれていた。
朝食を食べていたとき、シド王子は「今日もいつも通りの時間に迎えにくるから」と言っていたけど。
今日は何の花を教えてくれるんだろう。
お花の名前を教えてくれるのもだけど、あの中庭で一緒の時間を過ごせることがなによりも嬉しくて幸せに感じている自分に気付き……心が穏やかになる。