王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
こうして私はたくさんのものをシド王子にもらっているけど、なにかひとつでも返せているだろうか。
私がシド王子にしてあげられることは、なんだろう。
そんなことを考えていたとき、カシャンと鍵が開く音がした。
まだジュリアさんが出て行ってからほとんど時間が経っていないのに……と思い、ドアを見つめていると、もうひとつの鍵も開けられる。
なんとなくだけど、ジュリアさんやシド王子ではない気がして、胸の奥がざわざわと騒ぐ。
じっと見つめている先で、ドアがゆっくりと開き……現れたのは、見た事もない女性だった。
「どなたですか……?」
ふわふわとウエーブした茶色い髪は腰まで長さがあり、顔つきがきつい印象を受ける。
美人だけど、吊り上った瞳に怖さを覚えた。
三十代半ばといったところだろうか。
ワインレッドのドレスを翻し部屋に入ってきた女性のうしろから、お付きの使用人らしき女性が入ってくる。
その様子やドレスを見る限り、かなり立場がある方に思えた。
使用人がドアを閉めたのを確認すると、女性はようやく口を開く。
「突然の無礼をお許しくださいね。どうしてもあなたとお話したしたかったので、こういう形を取らせていただきました。
私はグランツ王国第二王妃であるラモーナと申します」
第二王妃……と聞いて、シド王子の話を思い出す。
この人が、シド王子に色々な嫌がらせをしていた人だ……。
「クレア・ソワールです」
そんな人が私になんの用だろう……と思いながら自己紹介すると、ラモーナ王妃がわずかに口の端を上げる。
決して好意的ではない笑みに、緊張を覚える。
ラモーナ王妃のうしろでは、使用人の若い女性が私を見つめていた。
ジュリアさんくらいの歳だろうか。