王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「そうですか。なんでも、シド王子が直々にあなたを婚約者だと公言しただとか……。聞いたときには驚いたけれど、今までの会話でわかったわ。
あなた、たいした器でいらっしゃるのね。だからシド王子はあんなにもあなたにご執着なのかしら」
「そんなことありません」という私の言葉にかぶせるようにラモーネ王妃が言う。
「それとも、なにか汚い手でも使ったのかしら……あなたの母親のように」
突然出てきた母の名前に「え……?」ともらした私に、ラモーナ王妃が口の端を持ち上げる。
「あなたの母親も平民でありながら、外見の美しさを使い国王に言い寄ったのでしょう? ただの平民が成りあがるにはどんな手でも使うという意地汚さや図太さには感服しますわ。
そして、自分の子どもにまでそんな教育を施していたなんて……本当、いやしい家系だこと」
「違います……! 母は、国王に強引に妃にされただけで……っ」
「誰かに指摘されたらそう言うように母親に言われたのかしら。そうすれば同情が買えると。どこまでも浅ましい」
軽蔑するような口調と眼差しに、呆然とする。
なぜ母をそんな風に言われなければならないのかがわからなくて……目的がわからなくて、頭の中がぐるぐるしていた。
ラモーナ王妃がなぜ母のことを知っているのかを、わざわざ調べさせたということを……そして、その理由を一番に疑問に思わなければならなかったのに……。
この時は怒りに震え、そこまで考えられなかった。
――それが、目的だとも知らずに。