王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「あら。褒めているのよ。そこまでプライドを捨てて成りあがれるなんて、普通の神経じゃできないことだもの。
テネーブル王国では塔で生活していたようだけど、希望通り裕福に過ごせていたんでしょう? 夢が叶ってよかったじゃない」
「夢……?」
あそこでの生活が夢だったはずがない。
母は……すべてを失って、あそこに閉じ込められたのに……。
止まらない、母への侮辱に、怒りで身体が震えていた。
「ずいぶん早くに亡くなられたようだけど。天罰でも下ったのかもしれないわね。さすがに神も見逃せないほどの傲慢さだったんじゃないかしら――」
ラモーネ王妃が言い終わるのが先だったか。……私の手がその頬を叩いたのが先だったか。
パシン……という乾いた音が部屋に響く。
たった数歩歩いて腕を振っただけなのに、呼吸が苦しいほどだった。
涙を溢れさせながら睨みつける私を、ラモーネ王妃の冷めた瞳が見つめる。
「母は、国王に強引に王妃にされ、それなのに血筋を問題にあの塔に幽閉されたんです! 国の勝手な事情で……それでも、王族の血を引いている以上、その責任を果たさなければならないと私に教えてくれた……!
誰よりも憎い国王の血を引く私を……一生懸命育ててくれた……っ」
息が切れ、涙が落ちる。
はぁ……と大きく息を吐き出してから「母を、悪く言わないでください……」とうつむくと、涙が絨毯を濡らした。
熱くなってしまった頭は、すぐには元に戻らずに、涙も止まらない。
誰も話さない静かな部屋で、ただうつむき呼吸を整えていると……ラモーネ王妃が口を開く。
「そのとおりね。あなたの母親は立派だったのかもしれないわね」
一瞬にして発言を翻され驚いて顔を上げる。
さっきまで散々言っていたくせに、なんでそんなあっさり……。
なにかおかしい……と思い見つめる先で、ラモーネ王妃は「発言が過ぎたようですし、謝るわ」と言い……「でも」と目を細めた。