王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「第二王妃であるこの私に手をあげるなど、どんな事情があろうとも許されないと知った上での行為かしら」

口ではそうは言いながらも、ラモーネ王妃の表情は満足そうに見え……あ、と思う。

さっき母を侮辱したのは……私を怒らせ手を上げさせるためだ。
そして、そうさせた理由はたぶん――。

「シド王子は、あなたを婚約者だと言ったそうだけど。だとしたら、今回の責任はシド王子がとるのかしら。婚約者の粗相は王子の責任ですものね」

淡々としていた声に、愉快そうな感情が見え、怒りを感じた。
この人にも……自分自身にも。

ぐっと歯を食いしばりながら、頭を巡らせる。

王妃に手を上げてしまった人に下される処分はなんだろう……。

テネーブル王国では、国王や王妃に手なんてあげたらかなりひどい処分が下ったと思う。
それこそ、命にかかわるほどの。

でも……グランツ王国の王族はテネーブル王国とは違う。
そう考え、落ち着こうとしていた時、ラモーネ王妃が「勘違いしないことね」と言う。

「国王やシド王子は確かに国民に甘く何事も問題にしないけれど、私は違う。
そして、第二王妃である私が問題にした以上、簡単に許されはしないわ。いくらこの国が才能や実力を評価するといっても、結局最後にものを言うのは身分よ」

静かに、そして冷たいほど感情のない声で言ったラモーネ王妃が、くすりと笑う。

「私が国王に、シド王子の婚約者に殴られたと報告した場合……一体、どういった処分が下されるかしら。王位第一継承者は、私の可愛い息子になるかしらねぇ」
「最初から……それが目的だったんですね」

怒りは消えないけれど、頭は少しずつ落ち着いてきていた。

きっと、ジュリアさんに用事を作ったのもラモーネ王妃なんだろう。
全部が最初から仕組まれてたんだ。

そして、情けないことに私はラモーネ王妃が企んだままに踊ってしまったんだ。
この行動が、シド王子に不利をもたらすことになることも分からずに。


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