王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「そうね。あなたの母親を悪く言いすぎてしまったし、ひとつだけ教えてあげるわ」
顔を見るのも嫌で、うつむいたままその声を聞く。
けれど続いた言葉に、驚いた。
「数日前の暴動。あなたがここにいるっていう噂を広めたのは私よ」
「え……」
思わず顔を上げると、細められた瞳と目が合う。
「ああもあっさり終結してしまうとは思わなかったわ。本当なら、国王が帰還されるまで長引かせて問題にしたかったのだけど。少し、情報が弱かったみたいね」
「なんで……」
呟くように言った私に、ラモーネ王妃は当たり前だとでも言いたそうな顔をした。
「シド王子の立場を不利にしようと思ったのよ。聞いているんじゃなくて? 私が自分の子どもに王位継承させたがっていると」
「……少しだけなら聞いています。ラモーネ王妃が、シド王子にしたひどいことを。なんで……ご自分にも同じように子どもがありながら、そんなひどいことが――」
「関係ないわ。私が大切なのは自分の子だけだもの。ずっと気に入らなかったのよ。正当な第一王子だからと好き勝手が許されるシド王子が」
はぁ、と小さく息をついたラモーネ王妃が「テネーブル王国のことも今回のことにしても」と続ける。
「シド王子はなんでも簡単にこなしてしまう。気に入らないけれど、彼なら王位がなくても周りからの評価は下がらないでしょう。
でも……私の子は違う。とても引っ込み思案で大人しい子なの。暴動なんかが起きたら、怯えてしまうような」
目を伏せたラモーネ王妃の表情に、初めて温度を感じた気がした。
「もしもシド王子が国王になんてなったら、私の子はどんどん影に追いやられてしまう。それではあまりに惨めだわ。だから、王位はシド王子には渡せないの」
強い意志のこもった瞳で言われ、黙る。