王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「シド王子の婚約者がその娘だなんて知ったら……。そして、その娘が私に手をあげたなんてことを知ったら……国民はどう思うのかしらね。
とてもじゃないけれど、あなたを好意的にはとらえないでしょうね」
私の目の前で立ち止まったラモーネ王妃が、冷たい瞳で見下ろしてくる。
身長は十センチほどしか違わないのに……それ以上の威圧感を覚えた。
「間違いなく、シド王子の評価は落ちるわ」
ふん、と愉快そうに鼻で笑うラモーネ王妃に、両手をギュッと握りしめる。
それから、俯き……口を開く。
「私がここを出て行けば、シド王子は国民に受け入れられたままここで過ごせる、と……?」
「そうね。〝あなた〟という足枷はなくなるわけだから。……もっとも、あれだけご執心しているから、あなたがいなくなったと知れば気落ちするでしょうけど」
楽しそうな声で言われる。
「正直、私はどちらでもいいの。あなたがいればシド王子の評価が下がり、あなたがいなくなればシド王子は精神的に折れてしまうでしょうから」
ふふっと笑ったラモーネ王妃が、私の顎に指をかけ無理やりに目を合わせさせた。
細められた瞳が冷たく光ったけれど……もうそこに恐怖は感じなかった。
この人への怒りが強すぎて。
「私は、あの王子が幸せそうにしているのが許せないのよ。第一王子っていう立場もあって実力も買われ人望だってあるのに、それに加えてあなたが来てからというもの、あんなに幸せそうに笑っている。
……それを見ているのが耐えられないの」
睨みつける私を、ラモーネ王妃は余裕の表情で見下ろす。