王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
雲が途切れたのか、少しの間明るくなったあと、また太陽が隠され部屋を暗さが覆う。
風が強い日は、こうして雲が速く流されるんだって……いつかシド王子が教えてくれたっけと思い出す。
空は高くなればなるほど風がなくなるから、低い位置にある雲の方が動きが速いって……あの中庭で、教えてくれた。
『頼むからさ、当たり前みたいな顔して自分を差し出すのやめてよ。育った環境のせいだし仕方ないけど、クレアは自分を軽視しすぎる』
『大事にしてよ。クレア自身のことを。自分についた傷もきちんと気にして欲しい。じゃなきゃ俺が許さない』
シド王子の言葉が頭に浮かぶ。
優しい声と、柔らかい笑顔が――。
「どちらにするか決まったかしら」と聞くラモーネ王妃に「はい」と答える。
そして「私はここを出て行きます」と答えを告げたあとで、思い切りラモーネ王妃の頬を引っぱたいた。
さっきわざと挑発したときとは違い、予想していなかったんだろう。
衝撃でよろついたラモーネ王妃が、数歩横に歩いたあとで驚いた顔を向けた。
「あなた、私になにを……っ」
「どうせ出て行くなら、その前に仕返しさせていただこうかと。……今まであなたがシド王子に与えた痛みの仕返しを」
一発で済ませるつもりはなかった。
ツカツカと足早に近づいた私を、ラモーネ王妃は信じられないような顔でただ唖然と見ていた。