王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「でも、おまえの母親はこうも言ってた。『罪を償うのは自分だけで充分だから、その時がきたらクレアは逃げろ』って。俺に、クレアを連れて一緒に逃げるように何度も頼んでた」
怖いくらい真剣な眼差しを見つめ返す。
いつだって正義感に溢れるガイルに、なんとか微笑みを浮かべた。
「今は、そのお母様がいない。だから私が代わりに償うの。王族の責任は引き継がれるものだと思うから」
母が亡くなったからって、そこで終わるものじゃない。
終わらせていいことじゃない。
「だから、俺はおまえの母親から頼まれて……っ」
「王室付きの騎士が向こう側についているなら、王族の名前も人数も全部知られてる。なのに逃げたら、きっと数がそろうまでみんな私を探す。
もしも今逃げて見つかったりしたら……その時は、ガイルまで罪を問われることになる」
本来なら始末しなくちゃいけない王族を連れて逃げたなんて知られたら、もしかしたらガイルまで処分を下されてしまうかもしれない。
「そんなの……嫌だよ」
浮かべていた微笑みがくしゃりと崩れたのが自分でわかった。
せめて涙を出さないようにとひとつ深呼吸して、気持ちを落ち着かせた。
「それに、こんな私でも王族だもん。国民にとっては憎くて仕方ない存在だから。今まで、この国のあり方に疑問を持ちながらも、私は何もできなかった。誰も助けてあげられなかった。だから……せめて逃げたくはない。これはお母様から受け継いだ私の仕事だから」
じっと見上げ「お願い。ガイル……」と絞り出すような声で言うと、ガイルは瞳を大きくし……それから、思い切り顔を歪めた。
髪に差し込んだ手で頭をくしゃくしゃとかき、視線を落とす。
その瞳にはわずかに水が浮かんでいるように見えた。