王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「あれ。着替えたの?」

中庭に誘うために部屋を訪れたシド王子が、不思議そうに聞く。

「え……ああ、はい。ちょっと気分転換に……」

朝着ていたのは、山吹色のドレスで、今は黄色。

バレないようにと似た色を選んだのに……結構きちんと見ているんだなと動揺してしまう。
これがガイルだったら絶対に気付かないのに。

ガイルは案外色んなことに気付くけど、服とか髪のことには呆れるほどに疎いから。

……でも、まさか気付かれるとは思わなかった。
なんでだと理由を聞かれたところで、まさかラモーナ王妃と取っ組み合いの喧嘩をしたからだとも言えないし……どうしよう。

目を伏せ、シド王子の視線に耐えていると、そのうちにふっと笑われたのが音でわかった。

「もしかして、俺と会うために?」

屈んだシド王子に耳元で聞かれ……咄嗟に出かかった〝違います〟という言葉を呑みこんだ。
なんだか恥ずかしくて嫌だけど、そういうことにした方が丸く収まる。

「だとしたら、ダメですか」

もごもごと言い見上げると、シド王子は嬉しそうに表情をほころばせ「まったく」と首を振る。
それから、私の手を取り廊下を歩き始める。

相変わらず人避けをしているのか、広い廊下はガランとしていた。

「まさかクレアが俺のために着替えてくれる日が来るなんて思わなかったから嬉しい。今度またドレスを贈ってもいい?」

本当に嬉しそうに言うシド王子に、チクチクと罪悪感を感じながら眉を寄せた。

「もう充分です」
「でも、まだクレアに似合いそうな色がたくさんあるし。デザインだってもっと色々ある。
この間大量に注文したせいか、生地屋の主人が俺を見かけるたびに新しい生地が入ったって呼び止めるんだよ。それに、仕立て屋の主人も新しいデザインだって見せてくるし。
そのどれもがクレアに似合いそうで……まったく、仕事上手で困るよ」


< 140 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop