王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「シド王子はもっと仕事してください……」

なにをしに街に下りたのか知らないけれど、そんな行った先行った先で……と呆れると、シド王子が笑う。

「いや、俺だって、公務はきちんとこなしてるよ。まぁ、街に行くと呼び止められることも多いけど……それも王族としては大事な仕事のうちだとも思うし」

穏やかな表情を浮かべるシド王子の横顔を見つめる。
その向こうには太陽が見え、キラキラと光って見えた。

数十分前は、あんなにも雲が太陽を遮っていたのに。

「困ってることとか、助けてほしいこととか、隠さないで話してもらえるような関係でいたいし。ジュリアなんかにはもっと一線引くべきだって言われるけど、俺は線を引くよりも全員同じ場所にいる方が好きだから。
いざっていう時に統率力は必要だと思うけどね」

情けない笑顔で「まぁ、国民に王子って認められてないだけかもしれないけど」と言うシド王子に、目を細める。

「そんなことないです。こんなに親しみやすくて頼りになる王子は、他にはきっといません。きっとみんな口にしないだけで、自慢の王子だと思ってますよ」

本当にそう思ったから言ったのに。
シド王子は珍しいものでも見るように目を丸くし「どうしたの……?」と聞く。

「どうもしませんけど……なんでですか?」
「クレアが俺を褒めるなんて、あまりないから……うっかり心臓を撃ち抜かれそうになったんだけど」
「そうですか」

わざとそっけなく言うと、シド王子は楽しそうに笑う。
それから、私の肩を抱き寄せ……耳に直接声を注いだ。

「今日の夜、クレアの部屋に行ってもいい?」

急に色を含んだ声にドキリと胸が跳ね、とっさに見てしまったシド王子の表情に言葉を失う。


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