王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「この花は割と生命力が強くて、ここまで過保護に守った場所じゃなくても咲くんだ。だから、たまたま見つけたこどもが間違って口にする可能性もある。
ハーブとして使う葉に、これとよく似たものがあるから」
「そうなんですね……」

そういえば、青い花も研究しているって話だったし、ここはそういった対象の花も多く育てているのかもしれない。

毒……と考え、唇をキュットかみしめる。

「クレア、こっちにも珍しい花があるからおいで」
「はい」

シド王子が背中を向けたのを確認してから……ゆっくりと立ち上がった。


揉みあいになったあと部屋を出る直前にラモーネ王妃の使用人が差し出したメモには、日程と時間が書いてあった。

おそらく、その日その時間に、誰かしらがここに迎えにきて、そのままグランツ王国を出るということなんだろう。

メモに書かれていたのは、明日の午前十時。

シド王子は公務でお城にいない予定だし、ジュリアさんもまたうまいこと用事を押し付け席を外させるつもりなんだろう。

ラモーネ王妃は、最初から私がどちらを選ぶかをわかっていたのかもしれない。
そう思うくらい、手筈は全部整っていた。

「クレア。どうかした?」

ベッドの上。上半身を起こし本を眺めていた私を、シド王子が呼ぶ。

部屋を照らすのは、ベッド近くに置いてある小さな照明だけだけど、それで充分だった。

素肌を隠すために胸の前まで持ち上げている布団を掴む手に力をこめる。
さっきまで散々見られていたとしても、恥ずかしい。

「いえ。この本の花がとても可愛くて眺めていただけです」

花の本は、今日、シド王子が持ってきてくれたものだった。

普通なら写真が載っている部分に、色鉛筆で描かれたようなイラストが載っている。
それがとても可愛くて、見た瞬間、お気に入りの本となった。



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