王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない



翌日の朝十時。メモのとおり、ジュリアさんは席を外していた。
なんでも、はずせない仕事が入ってしまったらしい。

ラモーネ王妃が裏で手を回したんだろうとわかっていたから笑顔でジュリアさんを送りだし……そして、その数分後、外から鍵が開けられた。

「クレア様。馬車がつけてある場所までご案内させていただきます」

そう言い、私の手から荷物をとったのは、昨日ラモーネ王妃と一緒に部屋まできた女性だった。

ラモーネ王妃だってこのことは公にはしたくないハズだし、今回のことを知っている人はごくわずかなんだろう。

カツカツと、自分の足音がやけに大きく響く気がするのは、なんでだろう。
その音が数を重ねるたびにここから離れているんだと思うと、決心したハズの心がわずかに揺らぐ。

衛兵のいない廊下を通り、細い通路から外へと出る。
人ひとり通るくらいしか幅のない扉を開けると、空からは太陽の眩しい光が降り注いだ。

綺麗な青空をじっと見上げていると、そのうちに「クレア様」と歩くよう促され、また足を進める。

馬車がついていたのは、お城の裏にあたる場所だった。
そこにも衛兵の姿はなく……もしかしたらこれもラモーネ王妃の指示なのかなと思う。

「荷物、ありがとうございました。ここからは自分で持てますから」

使用人の女性から自分の荷物を受け取り、馬車に乗り込む。

「クレア様。くれぐれも早まらないようお願いします」

重たい声で注意され、聞こえていたけれどうなづきはしなかった。

逃げるなと言いたいんだろう。
言われなくても、そんなこと、最初から考えていない。

逃げることも……そして、生き続けることも。


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