王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「ちゃんとできてるといいけど」
そう独り言をつぶやき、手の中に握りしめていた小さな瓶を眺める。
藍色のガラスでできた小瓶は、シド王子がいつだったか街に出たお土産でもらったものだ。
『シド王子の瞳の色とおそろいですね』と感想を言うと、にっこりと微笑まれたのが記憶に新しい。
小瓶のなかには、小さくちぎった葉っぱが入っていた。昨日、シド王子が教えてくれた毒の葉を、出来る限り小さくちぎったものだった。
昨日、一枚だけこっそり採ってきたものだ。
「それでは、道中お気をつけて」
馬車の外で使用人の女性が頭を下げると、しばらくして馬車がゆっくりと動き出した。
ガタゴトと揺れる馬車のなかから、外の景色を眺める。
でも……まったくといっていいほど綺麗に見えなくて不思議に思う。
ここに来てから、こんなことはなかったのに……外の世界に魅力を感じなかった。
ただ離れていく王宮を見ているのに耐え切れなくなり、背中を背もたれに預け、ひとつ大きく息をついた。
向かいの椅子の上は小さな窓がついていて、運転手の背中が見えた。
それをしばらく眺めてから、持ってきた鞄の中から、昨日シド王子にもらった花言葉の本を取り出す。
白い表紙の可愛らしい本を見ると自然と笑みが浮かび、気持ちが落ち着いた。
ペラペラとめくると、スズランやダリア、マーガレットと、シド王子に教えてもらった花が並ぶ。
他にもたくさん知らない花が載っていて……ひとつひとつの花言葉を読んでいるうちに、急に胸を大きな痛みが襲った。