王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「……はっ……っ」
ずっと耐えてきた悲しみが一気に襲いかかり、涙が溢れだす。
泣き声が運転手に聞こえてしまうと思うのに、漏れる嗚咽が止められなかった。
あんなに綺麗だったはずの世界が、ゆらゆらと揺れて見えなくなる。
「……あ……ぅっ」
寒くなんかないのに身体が震え、呼吸も震える。
喉が焼けるように熱くて、頬を流れる涙も熱を持っていた。
ポタポタと頬から落ちた涙が本を濡らしていくから、そっと本を閉じ……胸に抱き締める。
「ごめんなさい……っ」
あんなに守ってくれた人たちを、私はまた裏切ってしまった。
心配して怒ってくれたのに……私は――。
『俺だってそこまで馬鹿じゃねーよ。それくらいわかってる。わかった上でここに残って、おまえの心配してる』
ごめんなさい。
『大事にしてよ。クレア自身のことを。自分についた傷もきちんと気にして欲しい。じゃなきゃ俺が許さない』
ごめんなさい――。
頭の中に浮かぶ、シド王子やガイル、ジュリアさんやマイケルの姿を消すように、本をギュっと抱き締める。
そして……手の中の小瓶を見つめた。
いくらテネーブル王国の王族の責任を解かれたからといって、テネーブル王国の王族がしてきた事実がある以上、私の存在はこれからも問題の種にしかならない。
国王や王族が平民をしいたげてきたのは紛れもない事実だ。
……決して変えられない私の宿命だ。
王族である、加害者である私がシド王子の元にいたら、迷惑にしかならないし、いずれまたラモーネ王妃みたいな人に駒に使われてしまうかもしれない。
そのたびに迷惑をかけてしまうのは、どうしても嫌だった。