王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
私が離れたらシド王子は心が折れてしまう、とラモーネ王妃は言っていたけど……でも、シド王子ならきっと大丈夫だ。
きっと、周りの人の支えでまた立ち上がって前を向ける。
シド王子が優しいから、シド王子の周りに集まる人もみんな優しい。だから、大丈夫だ。
そう考え離れるべきだと判断したけれど……ふたつ隣の国の宰相のもとに行くつもりもなかった。
シド王子に触れられたこの身体を……他の誰にも触れさせるつもりはない。
「苦かったら……嫌だけど」
毒……と考え、昨日、シド王子が教えてくれたことを思い出す。
あんなに綺麗な花だけど、口に入れると身体に悪影響をもたらす花もあるって。毒の成分が含まれる場所は、茎だったり根だったり様々だって言っていたなぁとぼんやり考える。
塔にいるときには、本で知った知識しかなかったのに、今は色んなことを目で見て耳で聞いて知っていて……そのひとつひとつを思い出そうとすると、シド王子の声で再生される。
幸せだと思う。
私のなかはこんなにもシド王子でいっぱいで、その思い出を抱き締めたまま終われるんだから……意地を張ってるわけでもなんでもなく、幸せだ。
シド王子に教えてもらった毒で最期を迎えられるなら……幸せだ。
そんな風に思いながら小瓶を見つめてから、窓の外の様子をうかがう。