王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「おまえの母親は……なんで、おまえにそんな王族の品格だけを教えたんだよ……っ。おまえは、もっと自分のためになにかを望んだり、生きたり……していいヤツなのに……。なんで……っ」
掠れた声が胸を打つ。
ガイルはいつだって私の傍にいてくれた。
だから私は、母が亡くなったあとも、しっかりと立て直すことができたし、笑ってもいられた。
感謝しかない。
「お母様は、いつでも優しく真っ直ぐな方だった。悪く言わないで」
しんみりとしてしまった雰囲気を壊すように、わざと不貞腐れたように言うと、ガイルが何度か瞬きをしてから、苦笑いみたいなものを浮かべる。
「悪かった。そうだな。おまえの母親は優しい人だった」
そう言ったガイルが、テーブルの上の遺影を見つめてから、私の向かいにある椅子を引きそこに座る。
「そういや、腹減ったな。昼過ぎに持ってきた焼き菓子が残ってたよな。それ出して食うか」
呑気な笑顔で言うガイルにパチパチと瞬きを繰り返してから、ハッとして慌てて口を開く。
煙の臭いがさっきよりもきつくなってきていた。
「なにしてるの? 早く逃げて! この塔にだってすぐに誰か攻め入ってくるってガイルが言ったんじゃないっ。ガイルは王宮に仕えていた騎士だし、私から離れればすぐに向こうの人たちと合流できる……」
「俺は、王宮に仕えていたわけじゃない」
ぴしゃりと言われ黙ると……ガイルが続ける。
「おまえに仕えてるんだ。だから、おまえがここに残るなら、俺もそうする」
真っ直ぐな瞳に言われ、呆然としてしまう。