王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


ふたつ隣の国にいくには、いくつかの森を通るとラモーネ王妃は言っていた。

運転手にバレないよう、森のどこかで外に出て身を隠し、そこで毒を含むのがいい。

そうすれば、私が逃げたことがシド王子やガイルにも伝わるだろう。そうして、これだけ面倒みてやったのに自分だけ逃げ出した勝手なやつだと呆れて見限ってくれればいい。

死んだ、なんて伝わってしまえばきっと、あの優しい人たちは悲しんでしまうと思うから。

裏切り者だって、見放して忘れて……そこからは、自由に幸せを掴んで欲しい。

馬車の行く先に、森らしき木のかたまりが見えてくる。
初めてきちんと目にする森は、あまりに深そうで無意識にごくりと喉が鳴る。

そういえば、昔読んだ絵本のなかに、森の奥で魔女に出逢うお話があったっけ……と思い出していたとき。
ガタン!と馬車が大きく揺れ、止まった。

驚いて外の様子を見ようとした途端、外からドアが開けられびくっと肩が揺れる。

王宮からもう随分離れた場所だ。でもまだ国境まではきていないハズなのに、こんな風に止められるってことは……盗賊? 暴漢?

物騒な言葉が頭のなかを回る。

前を見ると、小窓にはもう運転手の姿はなくて、恐怖を覚えたのと同時に私も誰かの手に腕を掴まれ外へと引きずり出された。

力強い手に、ぞくりと背中を恐怖が伝い、頭が真っ白になった。



< 150 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop