王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「おまえの様子がおかしいっていうのは聞いてたから、またおかしなことするんじゃねーかって見張ってたんだ。そしたら案の定……。
ジュリアに、ラモーネ王妃になにか言われたのかもしれないって聞いた。いったい、何を言われた? 何を言われたら、こんなもん使おうって思うんだよ……」
ガイルは、くしゃっと髪に手を差し込む。
ぐっと怒りを堪えたような声に、苦しくなりながら口を開いた。
「私、お母様のことを馬鹿にされたのが我慢できなくてラモーネ王妃に手をあげたの。もっとも、ラモーネ王妃の目的は最初から私にそうさせる事だったみたいだけど……。その責任をシド王子に負わせるために」
あの時のことを思い出すと、奥歯がギリッと鳴る。
「私が、グランツ王国を離れれば今回の事は問題にしないって言われて……」と言ってから、自分自身の言葉に首を振る。
違う。それだけじゃない。
「テネーブル王国の王族の噂がグランツ王国にも広がってるって聞いた。平民をひどく虐げていたっていう噂が」
ガイルの表情が驚きに変わる。
その顔を見て、そうか、ガイルは知っていたのか……と分かった。
知ってて、でも私を気遣い黙っていたんだろう。
本当に……どこまでも優しい騎士だ。
「仮にも王族だった私が、シド王子の元にいたっていずれ問題になるときがくる。テネーブル王国で好き勝手していた王族を傍に置いてるなんて国民が知ったら、シド王子の信頼までなくなってしまうかもしれない」
はぁ……と息をつき、湧き上がってきた感情を吐き出す。
「私は……」と言った声に、いつの間にか涙が混ざっていた。
溢れ出した涙が頬を濡らす。
「私は……あの人を、私のせいで苦しめたくない。国民のためをいつだって思ってるシド王子の足枷になりたくない……っ。あの人を、守りたい……」