王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


叫ぶように言った直後。
拘束されていた手が放されると同時に、後ろからきつく抱き締められる。

それが誰だかがすぐにわかり……声を失った。

だって……今日は公務でお城にいないはずなのに……。

信じられない思いで何も言えずにいる私に、シド王子が静かに言う。
いつも通り穏やかな優しい声だった。

「初めてクレアと逢ったとき、ガイルを守ろうとしている姿を見て、俺もこの子にこんな風に想われたいと思った。大事に想われたいって」

あの塔でガイルを庇ったときのことを思い出す。

「でも、実際自分を想ってこんなことされちゃうとツラいもんなんだって初めて知った」

穏やかな声に、わずかにツラさが滲む。
私がこんな声を出させているんだとわかり、眉を寄せた。苦しくて、喉がひゅっと変な音を立てる。

「言っただろ? どうせまたクレアはこういうことをするって。俺が簡単に逃がすと思った?」

『そうは言ってもクレアは誰かのためってなればどうせまた自分を差し出しちゃうだろうけどね』

いつかの台詞が思い出され、放された両手を、ぶらんと下におろす。

あれからずっと、私を警戒してくれてたのだろうか。
心配、してくれてたのだろうか……。

そんな中、私はこんな勝手な行動をしたんだ。

「おまえも怒れよ! なに呑気な声出してんだよっ。こいつ、こんなもん使って死ぬつもりだったんだぞ?!」

怒りが冷めない様子のガイルに言われたシド王子が「そうだけど……」と歯切れ悪く言う。

「無事だったんだし、それでいいかなって。それに、クレアが無茶するってくらい、ガイルも知ってただろ? これからも俺たちが気を付けていればこうして止められるし、問題ない」

「おまえ……こんな時にまで点数稼ぎか。怒れよ、もっと。ここにくるまでの間、あんな必死なツラしてたくせに」

「無理だな。惚れた弱味だ」と軽く言ったシド王子が続ける。


< 154 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop