王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「俺がどんなに頼んでも……?」
さらさらと、シド王子の髪が風に揺れる。
空よりももっと綺麗な青い瞳を見て、微笑んだ。
「はい。私が私である限り、どんなに考えても無理でした。テネーブル王国の王族は横暴すぎた。私のせいでいつかあなたの立場を危うくしてしまうなら……今ここで、命を終えたい」
そこまで言ってから、慌てて続ける。
「でも、勘違いしないでください。私は決して自分を大事にしていないわけじゃない。自分の気持ちを大事にしたからこそ、あなたを守りたいと思ったんです」
見つめる先、シド王子の眉がぴくりと動き……そのまま潜められた。
ああ。結局私は、この人を困らせてしまう。
もうそこは諦めるしかないのか……と思いながら告げる。
「あなたのぬくもりが消えないうちに……私があなたのもののまま、幸せなまま終わりにしたいと思ったんです。だからこれは、私のわがままなんです。結局私も、傲慢な王族でした」
わがまま以外なんでもない。
宰相のところに行けばきっと不自由なく過ごせるのに。シド王子から離れて暮らせば、いくらでも平和に過ごせるのに。
それをあえて選ばないのだから。
全部、私のただのわがままだ。
「わがままを、きいてください」
意識して微笑みを浮かべたまま見つめると、シド王子は私を見つめ返し……しばらくしてから、顔を険しく歪める。
そして、諦めたように目を閉じた。
「わかった。じゃあ……苦しまないように、せめて俺がやる」
「え……そんな、シド王子の手をわずらわせるつもりは……っ」
「いいから。それに、その毒は偽物で使えないしね。……クレアのわがままは、俺がきくよ」
ふっとわずかに笑ったシド王子が、「おいで」と手を広げるから、キュッと唇をかみしめてから近づく。
シド王子の肩口に唇がぶつかる。ふわっと抱き締める腕に泣きたくなった。