王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「ガイル。クレアの髪を頼む」
「……おう」

ガイルが、じっとシド王子を見ながら短く返して、私の横に立ち長く伸びた髪を持った。
髪まで斬らないようにと気を遣ってくれたのがわかり、またひとつ胸が痛む。

鞘から短剣を抜く、金属のこすれる音が聞こえ目を瞑る。

視界を失くすと、色んな音が鮮明になって耳に入ってくる。
木の葉が一枚一枚揺れる音まで聞こえるようだった。頬を撫でていく風が気持ちいい。

こうして自然が風に揺らされる音を聞いていると、まるで王宮の中庭にいるような気持ちになった。
瞼の裏にはたくさんの花が咲き誇る中庭が映し出され、そこに立ったシド王子が私に微笑み、手を差し出す。

何度も……何度も、見た光景だった。

シド王子の肩におでこを乗せるようにすると……シド王子が静かに聞く。

「最後に……俺をどう想っていたかだけ、教えてほしい」

優しい穏やかな声。
大好きな声に問われ、目を瞑ったまま微笑んで口を開く。

そういえば、口に出すのは初めてだ。

「好きです。いつだって明るく温かくて……誰よりも優しいシド王子が、いつの間にか愛しくて仕方なくなってた。私の人生での幸せは、シド王子の存在でした」

目を瞑ったままでいると、一拍置いてから「……そう」という声が返ってくる。

そして「俺も、クレアを愛してる。だから……ごめん」と言う声が聞こえ終わった直後、シド王子の腕が動いた気配がし――。

息を呑んだ瞬間……パラパラと髪が顔の横に落ちる。

想像していた痛みも衝撃もないことに疑問を抱き……しばらく呆然としてから目を開けると、私を一歩分離したシド王子が微笑んでいた。

横に立つガイルの手には、私の髪があり……自分の髪に視線を落とすと、腰まであった髪は鎖骨のあたりまでの長さしかなくなっている。

……どういうこと?



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