王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「俺が本当にクレアを斬れると思ったの? 万が一にもそんなことしちゃったら、すぐに自害してあとを追うよ」
「でも……っ、これじゃあ、なにも問題が解決していない……。髪なんか切ったところで私は結局……っ」
テネーブル王国の元王族であることは、もうどうやったって変えられないのに。
叫ぶように言った私の両肩を、シド王子がそっと支えるように触れる。
「ラモーネ王妃のことだったら、もう気にしなくていい。前々から問題視はしてたから、ひとり使用人を潜り込ませてたんだ。今回、ラモーネ王妃が執拗に挑発したことも、クレアを追い出そうとしたことも、全部その使用人が報告してくれたし、必要なら公言もしてくれる」
驚いて目を見開くと、シド王子が「俺のために王妃と取っ組み合いになったことも聞いた」と苦笑いを浮かべる。
「本当に勇敢で困る」
「あ……あの時、ラモーネ王妃と一緒に部屋にきた女性の使用人が……?」
取っ組み合いの喧嘩を見ていたのは、あの人だけだ。
シド王子はうなづいてから「ジュリアとその子は繋がってるんだ」と説明する。
「ジュリアはただの使用人じゃない。スパイ……っていうとおおげさだけど、王宮内での事を探ったりしてもらってる。不穏な動きがあったとき、手遅れにならないように。
ジュリアは俺に剣の稽古をつけてくれた騎士団長の娘で、小さい頃から知ってるヤツだし信頼が置けるから。探らせてみてからわかったけど、そういう筋もいい」
ラモーネ王妃や他の誰かがおかしなことをしようとした時に備えて……と説明され、ああ、と納得する。
だから、ジュリアさんはシド王子のことをよく知っていたんだ。
『あの人、少し育った環境が複雑だから他人同士を結ぶ情みたいなものが理解できないんですよ』
そう言っていたのも、ラモーネ王妃だとかが仕組んだ影でのことを知っていたからだったんだ。