王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「返事が届いたのは、今日の朝早くで……俺がそこまで望むなら好きにしていいって。俺が結婚しないと王位継承するにも歪なカタチになるっていつも文句言ってたから、逆に喜んでた」
「……本当に?」
私を安心させるための嘘じゃないのか。
だって、いくらグランツ王国がおおらかだからって、私みたいに問題がある人間を王室に迎え入れるなんて……。
ありえない気がしてじっと見ていると、シド王子は「嘘じゃないよ。近いうちに直接国王に会わせるからその時聞けばいい」と落ち着いた声で言った。
「国王は、クレアにはなんの罪もないってハッキリと賛成してくれた。だから……あとはクレアの気持ちの問題だけ」
シド王子に微笑まれ、黙る。
私が心配していたことは、たしかに解消されている。
噂のことも、ラモーネ王妃のことも……。そのうちに心配することになったと思われる国王の意思も、シド王子が先回りして解決してくれたから。
ひとつだけ残っているとすれば……それはたぶん、私が私を捨てるかどうかということだ。
シド王子が〝私の気持ち〟と言ったのは……恐らく――。
「自分を偽りこの先を生きるのは、真面目なクレアには今ここで命を終えるよりもツラいかもしれない。だけど、さっき、クレアは俺が生まれ変わらせた。この剣で」
シド王子は、私の手をとるとゆっくりと自分に近づけ……手の甲に唇を寄せた。
そのまま、視線では私を捕らえる。
まるで、初めて逢った時みたいに。
「新しい人生を俺のために生きてほしい。クレアがこれを罪だと思うなら、クレアごとこの罪を俺に請け負わせて欲しい」
真剣な瞳に、涙が溢れる。
存在を偽るのが許されることだとは思わない。
〝クレア・ソワール〟という名前も過去も捨て、別人だと偽ってこの先生きるなんて……考えられない。
私はそういうところ、真面目だから……ガイルが言う通り、意地っ張りで一直線で頑固だから……。
普通だったら頷かないとも思う。
それでも……この魅力的な手を振り払おうとは思えなかった。
――この人と、生きたいと願う気持ちが勝ってしまった。