王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「バレバレ。ついでに、一日中、布に刺繍してそれも渡してたんだろ。こういう刺繍は技術がいるし誰でもできることじゃない。売ればそれなりの金になる。
ここ数年、城壁の修復のために平民が招集されてこの敷地内で働いてた。あの子どもは、そいつらの子どもってとこだろ?」

何もかもお見通しのガイルに思わず笑みをこぼしながらうなづいた。
本当に敵わない。

あの男の子を見かけたのは、一年ちょっと前だった。
たまたま塔の窓から外を見ていたら、迷ったのか外に立っていた子どもと目があった。

「ガイルの言う通り、たぶん、城壁の修復にきてたんだと思う。私はここからは出られないから、会話はできなかったけど……痩せてる子だったから心配になってパンを落としたら喜んでくれて……。食料が足りてないんだって分かったから、手紙を落として毎日ここにくるようにって伝えた」

「で、自分の分のパンをやってたわけか」
「もともと出される食事の量は多いと思ってたから丁度よかったの。刺繍は、母から教わってからただの趣味としてしていただけだったけど、もしも売り物になるならと思って……今の流行りは薔薇みたい」

〝売れた! ありがとう、おねえちゃん〟
書いた紙を私に向かって広げる男の子の姿を思い出すと笑みがこぼれる。

決して上手とは言えない、書きなれないようなそんな字は、もしかしたら私に伝えるために覚えてくれたのかもしれない。

ふふっと笑うと、呆れたような笑顔を返される。

「だから、ここ半年くらいは薔薇ばっか縫ってたのか。おまえ、もっと可愛い花のほうが好きなのに」

ガサツそうに見えるのに、随分しっかりと見られていたんだなと思い、苦笑いを浮かべる。


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