王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「やたらと布と刺繍糸のお使い頼まれるとは思ってたんだよな。おまえ、日中はずっと刺繍してるし、もしかしたらこんなとこに閉じ込められてるせいで精神バランスおかしくなったんじゃねーかってちょっと心配だったんだけど……途中で気付いて納得した」
そう微笑んだガイルが続ける。
「あの子どものために、あんなに頑張ってたんだな」
その言葉にはうなづかずに「あの子は、どうしたかな」と窓の外に視線を移す。
この革命の目的は王族のみ。となれば、平民の子どもであるあの子は危険な目には遭ってはいないだろうし、これからの日々は今まで以上に豊かなものになってくれるといいな。
そんな風に考えていたときだった。
「――話は終わった?」
突如、第三者の声が部屋に落ちた。
瞬時に、私を庇うように目の前に立ち塞がったガイルの腕と身体の隙間から、その声の主が見え、言葉を失う。
白い丸首のシャツに黒いズボン、こげ茶色のブーツ姿の男の人が、こんな時なのに思わず見とれてしまうほどに美しかったから。
目にかからない程度の長さの黒髪が、青い瞳の上でサラサラと揺れている。
彫刻みたいに端正な顔立ちの男の人は上背もあり、ガイルと対峙しても気迫負けしないくらいに身体付きもしっかりとしていた。
形のいい瞳が、私を捕らえてにこりと微笑む。
「おまえ……っ。グランツ王国の騎士だったのか……?」
ガイルの声にハッとし、今の状況を思い出す。
男の人を知っているような口ぶりだった。