王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「毒なんか入ってないから、安心して。長旅だったし、疲れたでしょ」
王族に与えられるような広い部屋の天井からは、キラキラとしたシャンデリアが吊るされていた。
上品な金色の刺繍が入ったワインレッドの絨毯に、二、三人は眠れそうな大きなベッド。
どう考えても、捕らわれの身である私が監禁される部屋には思えない。
座らされた椅子だって質がよさそうだし、テーブルに並べられた料理も色とりどりでおいしそうだった。
生まれて初めて見るようなキラキラした世界に、これは現実だろうかとぼんやり思う。
「もし、希望のものがあるなら、言ってくれればなんでも用意させるから」
にこっと細められた青色の瞳に、思わず顔をしかめ口を尖らせた。
「なにが目的ですか? 私は、あなたたちが滅ぼそうと攻め入ってきた国の王族の血を引く者です。それなのに、こんな部屋を与えて、食事まで……意味がわかりません」
トゲトゲしく聞くと、男の人は「目的って言ってもなぁ」と、困ったように後ろ頭をかく。
首回りが横に広く開いた黒いシャツに、深緑色のズボンとブーツ姿。
平民と変わらない格好をしているけれど、この人が騎士だということは、国に攻め入ってきたときの様子でわかっている。
観察するように見ていると、男の人と不意に視線がぶつかった。
目にかからない程度の長さの黒髪と、アーモンドみたいな形をした青色の瞳。鼻筋はスッと通っていて、形のいい唇から紡がれる声は高すぎず低すぎず、響きがいい。
それに加え、長身でガタイもいいし、剣の腕が立つのも、昨日の戦いで知っている。
どこまでも完璧な男が憎たらしく思えてじっと睨むようにして見ていると、困り顔のまま笑われた。
美形というのは、こういう顔を言うんだろう。
「そんなに睨まないで、そろそろ機嫌直してよ。なにもとって食おうなんて思ってないから」
「丸々と太らせてから食べようと思ってるって言われた方がよっぽど気が楽です」
淡々と言うと「食べないって」と笑われるから、その呑気な笑顔を睨んだ。