王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「無償で力を貸したんですか……? リスクだってあったのに……。お人よしすぎませんか?」

信じられない思いで聞いた私に、男の人がははっとおかしそうな声をあげる。

「たしかにそうだけどね。協力して欲しいって頭を下げられて、その目的が正しいと思えることで、そしてその力を自分が持っていたなら。ためらわず差し出すべきだと思ったから。苦しんでいる人が減るに越したことはない」

綺麗な言葉に、押し黙る。
そうだ……。本来、誰が相手でもそうあるべきなんだ。

そして、それを国同士の問題にも当てはめてくるこのグランツ王国は、とても心が豊かなんだろう。

テネーブル王国だったら……あの国王だったら、見返りがないなんて考えられないことだ。

自分からはなにひとつ与えることはないくせに、ただひたすらに与えられることだけを当たり前だと思い国民を見下していたあの国王だったら。

「敵になったら話も別だけど、いい関係が築けている限り、手を取り合っていけたらそれでいい。それに、今回のことで手を貸したっていう恩は、テネーブル王国国民の心のなかには残り続けるわけだし。いざとなったらそこをつつかせてもらうこともあるかもしれないしね」

口の端を上げて言う男の人が続ける。

「だから、完全な無償ってわけでもないかもしれない」
「それでも……テネーブル王国の人たちにとっては救いだったに違いありません。……ありがとうございました」

頭を下げると、男の人はキョトンとした顔をしたあと、ふっと笑う。
柔らかい表情ができる人だなぁと思う。



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