王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「クレアにお礼を言われることじゃないよ」
「あの……ガイルは、私と一緒に連れてこられた騎士は、無事でしょうか……」
悪いようにはしない、とは言われたけど……それを信じていいのかはわからない。
だから不安に思いながら聞くと、笑顔を返される。
「ああ、大丈夫。ここよりは見劣りするけど個室を与えてあるし、怪我の手当ても済ませたから。……ただ、クレアを心配して部屋を破壊して出ようとするから、部屋のモノを壊したり逃げ出したりした場合、クレアの命は保障できないって脅してあるけどね」
ガイルが暴れている様子が想像できるようで、ふっと力の抜けた笑みがこぼれる。
あばらを折ってるみたいで、移動中もわずかに顔をしかめていたけれど、手当てしてもらえたならよかった。
「よかった……」と安堵の声をもらすと、男の人は納得いかなそうな目をする。
「あの騎士の無事を知って安心する前に、危機感は感じないの? 俺は今、『クレアの命は保障できない』って脅したって話をしたんだけど」
「はい。……それが……?」
言っている意味がわからなくて聞き返すと、男の人は眉を寄せてから、はぁと息をついた。
「いや、いいよ。あくまでもあいつへの脅しであって本気じゃないし」
男の人が、眉間からシワを消し私をじっと見つめる。
探るようなそんな瞳だった。
「あいつ、ただの傍付きの騎士なんだろ? それなのにそんなに大事? 自分の命をかけても守りたいくらいに?」
塔でも同じようなことを聞かれた気がして、戸惑いながら「はい」とうなづく。
すると男の人はしばらく私を見てから「そっか」と小さな声で呟きその会話を終わらせたから、「あの……っ」と話しかける。
「ガイルは本当に悪い人じゃないんです。少しがさつだけど、優しくて真っ直ぐで……きっと、ここでだって役に立てるほどの剣術だってある。だから、ガイルを傷つけたりは――」